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2007年9月13日 (木)

働くおばあちゃん95才

 毎年、北海道に帰省するたびに街がくたびれていくことに気がつく。
産業が下火になり、取り残されたようにお年寄りばかりが増えていき、どことなく活気がない。
こういった現象は私のふるさとばかりではなく、どこの地方でも起こっていることだろう。

徳島県上勝町。

この町も20年前までは過疎と高齢化と沈滞した農業とに苦しんでいたそうだ。
そして、20年後の今も高齢化の状態には変わりがない。
変わったのはこの街の活気。
お年寄りが嬉々として仕事にいそしんでいるらしい。
最高齢はなんと95才である。

上勝町は料亭などに料理に添える葉っぱや花などの「つまもの」を出荷している。
ゼロから開拓した「つまもの」市場の8割のシェアをしめ、320種類もの「つまもの」を平均年齢70歳のおじいちゃんおばあちゃんが体も頭もフル回転させて出荷しているのだそうだ。
中には年収1000万円を超える方もいらっしゃるらしい。

先日、この「つまもの」ビジネスの仕掛け人の横石知二さんと糸井重里さんの対談を聞きに行った。
あまりにもたくさんの成功要因があるためすべてを紹介することは難しいが、その中でデモクラシーの視点で印象的だったのが、「お年寄りが社員として雇用されているのではなく、全員個人事業主として独立採算制をとっていること」だ。
「そうでなくては多分これほどの成功は収めなかったであろう」というのが、横石さんの意見である。

まず、個人事業主であることの利点は、やったらやっただけ自分の利益となることである。
出荷率や売上げのランキングが毎日更新され、なんとお年寄りが毎日それをパソコンでチェックしては、ライバルを見つけて競争しているという。
「今日はあの人に勝った、負けたと思うたりする。それがよう似たレベルの人とだったら、自分の張り合いになるけんな。」と針木ツネコさんはいう。
その競争心があらたな工夫を生み出す原動力になる。

例えば背の高い木は平地に植えずガケ地に植えれば山の上に上るだけで簡単に収穫ができる。
わざと日のあまりあたらないところに苗を植えて、出荷の時期を長く確保する。

などなど枚挙に暇がないほどの知恵だ。

思いついたらすぐ行動。だれに許可を得る必要もないのだ。
そして、それが年収という結果に結びつき、いきがいに結びつき、健康に結びつく。
とうとう、老人ホームが町から消えてしまったそうである。
徳島県で老人率が一番高い町なのにも関わらず、高齢化に付随する諸問題、医療や介護が消えてしまったのだ。

また、成功や経済力から生み出される自信から当事者意識やコミットメントが生まれる。

あるおばあちゃんは、農林水産省の人が視察に来たとき、 「今度、シラクさんが来られるみたいですけど、晩餐会はやらないでしょうか。もしやるんでしたら、ぜひうちの「彩」をつこうてください。」 とおっしゃったそうだ。
自分の仕事やお金に責任を持つとそこから地続きで地域や国、世界にも興味がでてくるものだ。
20年前までは助成金をもらって国に面倒をみてもらうことだけを考えていた人々だ。
農業は構造不況だと人のせいにしていた人々が、自分の人生や社会にまで責任をもつように変わったのだ。

もちろん、これは個人事業主だからこうなったのではなく、自腹を切ってマーケティングに奔走した横石さんの力があってのことだろう。
しかし、横石さんがこれを自分の会社の事業として、お年寄りたちを雇用する形で行っていたら、これほどお年寄りたちがこの事業を自分たちのこととして考えられていただろうか?
おばあちゃんたちが繁忙期には夜中の2、3時まで出荷作業をする。
そしてそれに誇りをもって嬉々としている。
こんなふうにはならなかったに違いない。

すべての会社が社員の雇用をやめて個人事業主として契約するようにしようという話をしようというわけではない。
個人事業主にはそれなりのデメリットもある。
例えば、経理といった間接的なコストが余分にかかったり、みんなを同じ方に向かせることが難しい。
たまたま上勝町には横石さんというビジョンを示せる人がいたからうまくいっているのだ。

むしろ、一つの企業としてのよさを生かしつつ、こんな風に人々にいきいきと働いてもらうにはどうしたらいいのかを考えるほうが早道かもしれない。

どれだけ透明で納得性のある報酬制度が作れるか。
どんな風にすれば現場がどんどん改善する権限の委譲ができるのか。
どのようにすれば全体が底上げされるような健全な競争が生まれるのか。

雇用される人々が自律的にいきいきと働くためにはどのような仕組みが必要なのかというヒントがこの話にはつまっているように思うのだ。

参考;横石知二著「そうだ、葉っぱを売ろう!」ソフトバンククリエイティブ 定価1500円

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