矢尾板俊平

2007年8月25日 (土)

日本経済の疑問(1):労働分配率

Dsc00166_2 1990年代以降、日本経済は、大きな構造変化を遂げた。
特に、経済の成長は、高度成長期から安定成長期に移行した。
景気拡大期における実質経済成長率の平均値も、高度経済期においては、10%を超えていたが、近年の景気拡大は、2-3%程度の成長でしかない。

従来の日本型ガバナンスのシステム(企業システム、金融システム、雇用システム)は、高度成長を前提としたシステムであった。つまり、富が拡大することによる恩恵によって、日本型ガバナンスシステムは持続することができたのである。しかし、経済が安定成長となり、富が拡大することによる恩恵の配分が小さくなると、従来型のシステムを持続させることが難しくなった。現在の日本経済、日本社会には、安定成長を前提とした新たな日本型ガバナンスシステムを見出すことが求められているのである。

本稿では、このような問題を考えるにあたり、とりわけ、1990年代以降の日本経済について、データに基づいて観察することによって、1990年代以降の日本経済の特性を見出し、今後の新たな日本型ガバナンスシステムを考える材料を提供したいと考えている。

まず、現在の格差議論でも登場する「労働分配率」の問題について、考えてみよう。労働分配率とは、国民所得における雇用者報酬が占める割合を示したものである。企業で考えれば、企業の所得(付加価値)の中で、どれだけ人件費が占めているか、ということを考えている、ということである。

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図1.労働分配率の推移

図1では、1980年代以降の労働分配率の推移が示されている。この推移を見てみると、おおむね、景気縮小期(不況)のときは、労働分配率が上がり、景気拡大期(好況)のときには、労働分配率が下がるという傾向があることがわかる。

簡単に考えると、雇用者報酬(人件費)が一定だとすれば、不況の時は、国民所得(付加価値)が減るので、そのウェートは大きくなり、好況の時は、国民所得(付加価値)が増えるので、そのウェートは小さくなる。この傾向を、一部を除き、日本の労働分配率の推移も辿っている。

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図2.国民所得の推移

しかし、図2で国民所得の推移を見てみると、1990年代以降、ほぼ横ばいの状態である。仮に、不況に対応して、企業が人件費を削減するなどのリストラを行えば、労働分配率も横ばいになる。しかし、1990年代以降、2001年度まで、労働分配率が上がり続けるのである。

これが、今回の「日本経済の疑問」である。

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図3.雇用者報酬の推移

この答えは、簡単である。図3で見るように、雇用者報酬が、1990年度以降も1997年度まで増加し続けている。つまり、企業は、不況期にあっても人件費を増加させるか、もしくは、少なくとも維持してきたのであった。

このため、本来であれば、労働分配率が減少するであろう景気拡大期の1994年‐1996年頃の労働分配率が増加してしまったのであった。そして、1997年以降には、再び、景気の縮小が訪れた。このとき、初めて、雇用者報酬を引き下げたのであるが、国民所得も減少しているので、結果として、労働分配率が増加してしまうという結果となる。

つまり、1990年代、企業は、人件費に関する削減を積極的に行わず、従業員の雇用を維持し、守ってきた姿が、労働分配率の推移からわかるのである。これは、後に、企業にとって、大きな負担となったとも考えられる。

日本経済で、本格的に、労働分配率が引きさがり始めたのは、2003年以降である。これは、現在の景気拡大が始まった時期と一致する。しかし、国民所得の推移を見てもわかるとおり、これまでのような大型の景気拡大ではないので、分母が大きくなったための労働分配率の低下という特性とは言えない。それよりも、雇用者報酬が大きく増加していない、ということの方が理由としては説明がしやすいだろう。これは、労働市場の流動性が高まったことなどが指摘できる。この点を読み解くひとつのポイントは、非正規雇用の拡大にあろう。(この問題は、別の機会で考えることにする。)。

今後、労働分配率は、どうなるのか。それは、安定成長を前提に考えれば、分母が大きくなるということは、あまり考えられないので、雇用者報酬がどのように変化するのか、ということに注目すれば、答えが見つかるだろう。企業が、再び、正規雇用を増加させれば、労働分配率が、再び、増加するであろう。しかし、企業が人件費を削減することを続けるとすれば、労働分配率は、ますます低下する。

昨年の就職市場から、新卒の求人が増加している。この点を考えれば、労働分配率が若干増加する可能性もある。その一方で、日本の労働分配率は、国際的に見れば、まだ過少とは言えない。そのため、構造調整が必要であるとするならば、労働分配率が低下することも考えられる。

重要なことは、労働分配率の増減に一喜一憂することなく、企業が適切な雇用政策を実施しているかどうかをウォッチすることであろう。

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2007年8月24日 (金)

企業のBCPとデモクラシー

Dsc00166_2 最近、企業のBCP(事業継続計画)が注目を集めている。BCPとは、災害や事件・事故が発生した場合に、企業の事業を、どのように継続するのか、ということを、あらかじめ計画をしておくものである。近年、鳥インフルエンザ問題への脅威も大きくなってきており、米国の企業は、鳥インフルエンザが人間から人間に感染する日が来ることを予期して、さまざまなBCPを検討している。日本でも、初夏に、東京の大学を中心に、はしかの感染が拡大したが、現在、自然災害や大規模な事件・事故以外にも、こうした感染症への対策としても、企業がBCPを策定することが求められている。

経済産業省中小企業庁や政策投資銀行では、企業のBCP策定についてのガイドラインを策定し、企業側にBCPを策定することの支援を行っている。また、将来的には、金融の現場においても、企業がBCPを持っているかどうかによって、金利や保険料を検討する材料になるかもしれない。なぜならば、BCPを持つ会社は、危機対応に対して、一定の能力があることを外形標準的に表明することであり、すなわち、「倒産しにくい」(=リスクが低い)ことを証明する材料になるからだ。これは、株式市場における企業評価にも良い影響を与えるだろう。

もちろん、情報の不確実性を想定すれば、災害、感染症、その他の事件・事故の予測には、限界がある。そのため、完全なBCPを策定するということには限界があろう。しかしながら、対応を進めておくことで、被害を縮小させることは可能である。

企業は、ひとつの企業だけでは存在しえない。取引先もあれば、地域経済との関係もあろう。従業員との関係も考えられる。このように考えれば、ひとつの企業に対する損害(ダメージ)は、社会全体に波及することも考えられる。この点において、BCPの策定が、被害を少なからず引き下げる効果を持つのであれば、経済全体への影響も考えれば、公的な支援措置や、金融における促進措置には、ある程度の正当性があると言えよう。

BCP策定において、最も重要なことは、リスク評価である。企業が直面するであろう、さまざまなリスクを想定して、その発生確率とリスクが発生した場合に企業が受ける損害規模を考慮し、リスクの大きさを検証する必要がある。そのリスクの大きさ、特性に応じて、対応策も異なってくる。たとえば、取引先の倒産なども、当然ながら、リスクとして考慮するべきである。

リスク評価に基づいて、適切な対応策を策定して、その後に検討するべき課題は、そのBCPの実効性である。いざ、危機に直面したとき、そのBCPを実際に運用できるかどうかということが問われるのである。この点で、重要なのが、企業内全体におけるBCPの理解と共有であろう。危機において、誰が、何を行うのか、ということを、全体で共有し、自分の役割を理解することが求められる。そのためには、企業全体で、BCPを納得するということが重要である。

そのためには、BCPをトップダウンで策定するよりも、デモクラシー型で、企業全体で納得をし合いながら、リスクの評価から、実際の行動計画までを考えることで、共有度が高まるであろう。BCP策定をデモクラシー型で行う、もうひとつの理由は、策定の議論を通じて、教育訓練効果が考えられるからである。ひとりひとりの危機管理能力が高まれば、BCPの弾力的な運用も可能であろう。危機は、完全に予測できないから、BCPも弾力的に運用することが重要である。

このように考えれば、デモクラシー型で策定されたBCPこそ、危機に対応する能力は高いと思われる。素晴らしい計画を作ることではなく、「みんなで考える」ことこそに意味がある。

企業が危機管理能力を持つことは、企業の社会的責任であり、今後、BCPも含めた危機管理能力も、こうした指標の中に組み込まれていくだろう。

矢尾板俊平(2007.8.24)

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2007年8月23日 (木)

日本の民主主義の育成・発展のためには。

 先日、若手の政策研究・提言団体の会合に参加いたしました。いま、政策提言や議論を行っている元気な団体がたくさんあるということを実感し、また勇気を頂きました。こうした元気な団体が数多くあることは、業界全体を活性化することになるので、大変素晴らしいことだと思います。

 それぞれの団体が、それぞれの得意な分野で、考え、議論し、提言していくことが、政策研究の業界、そして、日本の民主主義の育成・発展のためには、重要であると思っています。

 それぞれの団体は、小さいかもしれないけれど、連携をしたりすることで、大きな力になるはずです。そのためには、緩やかな連携ネットワーク・プラットフォームを相互に作っていくということが重要になってくると思います。

 もうひとつ重要なことは、大きな影響力を持つシンクタンクに、こうした活動に対して興味を持ってもらうことです。

 私は、政策分析ネットワークでの経験なども活かして、日本の民主主義の育成・発展のためにお役に立てればと思っております。

 日本未来リーグさんのページに当日の模様がレポートされています

 また、デモクラシーファンド研究センターも、がんばっていければと思います。

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